dosu

 気が付けば、ぼくは真白い部屋に居た。 訳が解らないと思うが、実際の所自分でも訳が解って居ない。状況把握をせねばと、自然と頭を働かせる。目を閉じ、ゆっくりと考える。自らは、何者で、何をして居たのかと、然うした所で、不意に声が聞こえた。

sibu

 男は戸惑って居た。何せ、総ての記憶が無い。自分が何者で或るかも、何を生業として居たのかも、何を求めて居たのかも、全て、総てだ。 だが、此れだけは解った。此処は自分の場所では無いと。

daza

 何事にも、例外は或るのだと少年――中島敦は識っていた。 例えば、目の前の男。『   』と『名乗る』男は、濡れ鼠の様な風貌で、参ったとばかりに、大袈裟に肩を竦めて居る。
「また川ですか」

akut

敦は瞳を大きく開き驚いて居た。真逆、部屋に現れるなり瞬時に此方に向かって切迫し、拳を振り上げられた事は今迄に無かった事だったからだ。 だが、其れが彼にとって、生きる為に必要最低限の行動であると哀しい程理解して居た。

yoyaku

此の白い部屋は、誰の為にでも在り、誰の為でも無い隔絶された世界だ。 梯子に手をかけ、乱雑に、規則性の無い並びの本を、じっと見やる。 否、正確に云えば「僕」と云う存在の為に、この部屋もまた存在する。 何処にも行けない僕だから、自分で部屋を作るしか無かった。然うして、此の知識や知恵の詰まった紙束たちを収める棺が必要だった。
ただ、其れだけ。
だが、其れが如何しても必要だった。

本についてのお話

神宮要の考えた、「本」についてと各キャラクターたちに焦点を当てたシリアス小説。キャラクターたちの其々の印象や空想をふんだんに盛り込んだ、『観測して考える』、そんな本についてのお話、もしくは【以下検閲により削除】